東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2255号 判決 1976年11月15日
控訴人 南善男
右訴訟代理人弁護士 杉原尚五
同 杉原尚士
右訴訟復代理人弁護士 須々木永一
被控訴人 国
右訴訟代理人弁護士 柴田次郎
右指定代理人 一ノ瀬雄二
同 清水正三
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一、控訴代理人は、「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人は、控訴人に対し金三四万七、二五五円及びこれに対する昭和四七年七月一三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
二、当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、双方において次のとおり主張を補足し、控訴代理人が甲第六、七号証を提出し、被控訴代理人が右甲号各証の成立を認めると述べたほかは原判決事実摘示の記載(ただし、次のとおり訂正する。)のとおりであるから、ここにこれを引用する。
1.原判決五枚目裏八行目以下九枚目裏八行目にわたり「裁判所裁判官」とあるのをいずれも「裁判所」と訂正する。
2.同五枚目裏八行目中「裁判官は」の次に「本件物件のすべてにつき」を加える。
3.同六枚目表一行目中「(昭和四六年(ケ)第一〇四号)」の次に「この申立は前記裁判所同年(ケ)第五七号不動産競売事件記録に添付された。」を加える。
4.原判決添付目録(三)記載の宅地の表示中「二五五・〇九平方メートル」とあるのを「二五五・九〇平方メートル」と訂正する。
控訴人の補足した主張
(一)本件競売手続において全部の不動産を競売に付しても過剰競売とならないから裁判所は競売の申立を受けた不動産全部を競売に付すべきであって、これについて裁判所の裁量の余地はない。本件競売裁判所がこの措置をとらずに、原判決添付目録記載の不動産(以下本件物件ともいう)中(二)の土地を競売に付さなかったのは違法である。
(二)控訴人は(二)の土地に存した訴外相模原信用組合(以下訴外組合という。)の抵当権を民法第三九二条二項に基づいて代位することはできない。すなわち、本件物件中(三)・(四)の各土地は訴外組合から競売の申立がなされる以前の昭和四五年三月三一日にもと所有者の訴外広瀬林建工業株式会社(以下単に広瀬林建という。)から株式会社菊地商会(以下菊地商会という。)に譲渡され、控訴人は同商会からこれらの土地について抵当権の設定を受けた。
かように、共同抵当権が設定された不動産の一部の物件が第三者に譲渡された後にその譲渡物件について抵当権の設定がなされたときは、この劣後する抵当権者について民法第三九二条二項の適用はない。
また、右物件の第三取得者である菊地商会が訴外組合の(二)の土地に有する抵当権を民法第五〇〇条により代位行使することができるとして、更に控訴人につき民法第三九二条二項の適用を認めるとすれば、代位権を更に代位行使するという結果となり、これは同条項の予想するところではない。
(三)仮りに右主張が容れられないとしても、控訴人が(二)の土地につき訴外組合の有する抵当権を代位行使することは事実上不可能である。すなわち、(二)の土地についての訴外組合の申立による横浜地方裁判所昭和四六年昭和四六年(ケ)第五七号競売申立事件は昭和四七年八月二六日取下げられ、同土地については同組合は昭和四八年一月三〇日根抵当権を放棄し、その他同土地に存した制限物権等の負担がすべて排除されたうえ同土地は同日所有者の広瀬林建から訴外株式会社まつもとに売り渡され、同年二月一二日右根抵当権の抹消及び右所有権移転の各登記が経由された。
更に、右土地は同年七月二七日三一八五番四と同番六の各土地に分割、分筆登記がなされ、後者の土地は同年一一月一日建設省に譲渡されて同月五日その所有権移転登記が経由され、前者の土地について前記まつもとが同年一〇月二九日世田谷目黒農業協同組合のために抵当権を設定し、同年一一月一日その設定登記が経由された。
控訴人は(二)の土地に存した訴外組合の根抵当権の代位につき附記登記等を経由していなかったから、第三取得者の前記まつもと、建設者及び抵当権者の前記協同組合に対し対抗することができない。
従って、控訴人は(二)の土地の競売による売得金の配当にあずかる余地はない。
(四)訴外組合の本件競売申立債権の残元金及び損害金の数額に関する被控訴人の主張を認める。
被控訴人の補足した主張
(一)本件競売の申立債権者である訴外組合の昭和四六年一二月一〇日の第二回競売期日における本件競売申立債権の残元金及び損害金は別紙債権目録記載のとおりである。そうして右債権及びこれに優先する抵当権の被担保債権(この抵当権者も訴外組合である。)を満足させるためには本件物件中(一)・(三)・(四)の各土地を競売に付するだけで十分であり、(二)の土地については控訴人が民法第三九二条二項による代位権を行使したときにこれを競売に付すべきものである。これに反して、最初から本件物件の全部を競売するとすれば、(二)の土地につき控訴人が抵当権を有しないのに、控訴人にこの土地の換価権を認める結果となり、不合理である。けだし、控訴人が同条により代位できる範囲は訴外組合の債権の範囲内に限られ、かつその代位権は訴外組合が右被担保債権の一部でも弁済を受けなければ発生しないのみならず、この権利を行使するか否かは控訴人の意思にかかっているからである。のみならず、先順位抵当権者に代位できる範囲を加算するとしても、競売に付する段階で代位権の範囲を算出することは極めて困難である。
従って、先行債権者と後行債権者の担保権がともに存している物件についてのみ民訴法第六七五条により過剰の有無を判断せざるを得ず、またこれをもって足りる。
仮りに後順位の抵当債権を全額加算すべきものとしても、競売裁判所は後順位債権者の代位権の行使に関して右に述べた諸点をしん酌して最も問題のない物件から順次競売に付して行くことは当然許されるところであり、競売物件を同時に全部競売に付さなくとも違法ではない。
(二)本件物件中(三)・(四)の各土地が菊地商会所有のものであり、かように第三取得者が介在する場合に同土地の後順位抵当権者の控訴人につき民法第三九二条二項の適用がないという控訴人の主張は争う。(三)・(四)の土地の競売により菊地商会は同法五〇〇条によって(二)の土地の訴外組合の抵当権につき代位権を取得するが、この代位権は控訴人の代位権に優先することができない。
(三)本件物件中(二)の土地につき控訴人主張のような各登記が経由されたことは認める。
しかし、控訴人には右土地につき代位権行使または少くともその権利保全のため代位の附記登記をなす十分な時間的余裕があったのに、これをしなかった結果代位権の行使ができなくなったに過ぎない。
理由
一、原判決事実摘示中の請求原因一ないし六の事実、七の(1)ないし(3)の事実及び競売裁判所である横浜地方裁判所(以下競売裁判所という。)が昭和四六年一〇月一日、競売期日の同年一一月五日に競売に付すべき不動産を本件物件中(一)及び(三)・(四)の各土地と定めて競売期日の公告をし、右競売期日に競売が実施されたが、競売の申出がなく、ついで右(一)及び(三)・(四)の各土地の競売につき指定、公告された同年一二月一〇日の競売期日に訴外組合が(一)の土地を、訴外株式会社一幸が(三)・(四)の土地をそれぞれ競落し、同月一七日の競落期日に競落許可決定が言い渡され、この競落許可決定はその後いずれも確定し、昭和四七年五月八日の代金支払期日に右各競落人が競落代金の支払をしたこと、競売裁判所は同年六月二二日原判決添付の(一)・(二)の各計算書を作成したところ同月二九日の配当期日に控訴人が異議を申立てたこと、競売裁判所が本件物件中(二)の土地について競売を実施しなかったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
二、右事実によれば、訴外組合の本件競売申立債権の元本額は金二一六一万四、五〇五円で、控訴人の競売申立債権の元本額は金七〇八〇万円であって、控訴人主張のように右各債権の元本額だけについてみてもその合計額は本件各物件のすべての評価額の合計金額(五一一六万七、七九〇円)をはるかに超えることが明らかである。
しかし、任意競売に準用される民訴法第六七五条一項にいう債権者には競売申立債権者及びその先順位抵当権者のほかに、競売の申立をしその記録が先行の競売記録に添付された後順位抵当権者が含まれると解されるが、かような抵当権者の被担保債権を考慮して同条の適用の有無が決せられるのはその抵当権者が抵当権を有する不動産の競売についてだけであって、抵当権を有しない不動産の競売に関してその債権者の債権を考慮して同条の適用の有無を決することは許されないと解すべきである。けだし、これを認めるとすれば、抵当権を有しない不動産につき代位によらずして競売の実施権を認めるのと同様の結果となるのみならず、数個の不動産の先順位共同抵当権者が一部の不動産につき優先弁済を受けたときは後順位抵当権者には別に民法第三九二条二項により先順位抵当権者がその余の不動産につき有する抵当権の代位行使権が付与され、これにより後順位抵当権者の保護に欠けるところはないからである。なお控訴人は本件物件中の(三)と(四)の土地について訴外組合が抵当権の設定を受けた後にその各所有権を取得した菊地商会から同商会に対する債権について抵当権の設定をうけたものであるが、このような場合に右民法三九二条二項の適用を排除すべきいわれはない。本件競売につきこれをみるに、控訴人は本件物件中(三)・(四)の各土地については記録添付を受けた後順位抵当権者の地位にあるが、その余の(一)・(二)の土地については抵当権を有しないのであるから、競売裁判所が本件競売の実施につき民訴法第六七五条一項を適用し(二)の土地を除外するにつき控訴人の債権を考慮しなかったのは当然の措置であって、なんら違法の点がなく、それは控訴人が当審において補足主張した(三)記載の事情が存しても変りはない。控訴人の主張はこれと異なる見解を前提とするもので理由のないことが明らかである。
三、以上のように控訴人の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきである。これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって民訴法第三八四条に従い本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき同法第九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松永信和 裁判官 間中彦次 糟谷忠男)
<以下省略>